新聞記事から

【報道】 新聞記事より

■心の扉を開いて 共に生きる兵庫 第1部「地域で暮らす」/9 1人じゃないですよ 心にしみる言葉、母親も自立 /兵庫

毎日新聞2017年8月21日 地方版

https://mainichi.jp/articles/20170821/ddl/k28/040/332000c

 

8月12日、家族連れやカップルでにぎわう神戸市須磨区の須磨海岸。重度脳性まひの岡島伸明さん(40)=長田区=は久しぶりの海水浴を楽しんだ。ライフジャケットを着けてヘルパーに体を支えてもらい、気持ちよさそうに波に身を任せた。

交通事故で下半身が不自由となった木戸俊介さん(31)=北区=が今夏から企画したプロジェクト。車椅子利用者が波打ち際まで進めるよう砂浜にビーチマットを敷き、水陸両用車椅子で海を楽しむ。

伸明さんが海に入っている間、見学に来た母富美子さん(64)は、海の家で友人らと談笑していた。以前なら息子を心配して、一緒に海に飛び込んでいただろう。他人に息子の介護を委ねられない、そんな母親だった。

障害支援区分が最重度6の伸明さんは8年前から、ヘルパーが長時間滞在する重度訪問介護を利用して長田区のアパートで1人暮らしする。意思疎通もできない子を手放した母親の意識は変わった。

×  ×

在宅で伸明さんを介護していた頃。富美子さんは息子を抱え込んでいた。ヘルパーが付いても、母親がつい手を出してしまう。「あなたにはできないでしょ」。息子のことは自分が一番よく知っている。自負心もあった。体が動く限り面倒を見て、いよいよの時は入所施設に預ければいいと考えていた。

「おばちゃん、ノブ(伸明)さんを1人暮らしさせようよ。無理だったと戻ってきても僕らがずっと支援していくから」。当時NPO法人ウィズアス職員だった高見忠寿さん(34)=丹波市市島町=は富美子さんに語りかけた。専門学校生でヘルパーのアルバイトをした19歳の時、初めて介護をしたのが伸明さんだった。以来、この親子を支えてきた。

望んで入所施設に入る人はいない。時計に合わせた生活よりも、ゆっくり食事や外出を楽しむ方を誰もが選択するはずだ。富美子さんが元気なうちに伸明さんの自立生活を実現させたい。高見さんの思いは募っていた。

富美子さん自身も、成長する伸明さんの介護を続けるのは体力的に限界と感じていた。この子は自分がいなければ生きていけない。その思いだけが、富美子さんを支えていた。

「おばちゃんは1人じゃないですよ」。親身になってくれる高見さんの言葉は心にしみた。高見さんらは伸明さんに付くヘルパーの数を増やしたり、宿泊訓練も重ねて1人暮らしの準備を進めた。

「入所施設じゃだめなの」。消極的な区担当者に対して、何度も足を運び支援の必要性を訴えた。その結果、深夜帯に支給時間数が減らされるケースが多い重度訪問介護だが、1日24時間ヘルパーを付けることができた。

1人暮らしを始めた息子は、見せたことのない穏やかな表情を浮かべた。自分がいなくても周りが支えてくれる。母親は思い知った。兄の自立生活は知的障害のある妹ひろみさん(35)にも影響を及ぼす。「私も1人で暮らしたい」と訴え、一昨年7月親元を離れた。

富美子さんは4年前に夫を病で亡くしており、須磨区の自宅は自分1人になった。日中、長田区の共同作業所「くららべーかりー」でボランティアをして、利用する障害者の昼食を作る。「この子らとのふれあいが唯一の生きがい」と笑顔で語る富美子さん。「支援者のおかげで母親も自立させてもらった」【編集委員・桜井由紀治】=つづく

 

 

 

■障害者総合誌 「街に出よう」次章へ…地域で生きる、終刊

毎日新聞2017年8月4日 14時20分(最終更新 8月4日 14時24分)

https://mainichi.jp/articles/20170804/k00/00e/040/300000c

 

大阪を拠点に38年にわたり、地域で生きる障害者たちの実感と声を読者に届けてきた障害者問題総合誌「そよ風のように街に出よう」が、7月末発行の第91号で終刊した。時代の変化を背景に「当初の役目は終えた」との判断で、今後は新たな発信へと駒を進める。【畑律江】

「そよ風~」は1979年、大阪市東淀川区内に編集部を置き、編集長の河野秀忠さん(74)を中心に季刊誌として創刊。「障害者自身の立ち上がりをよりどころとした本づくり」「身体と実感に支えられた本づくり」などを編集指針に掲げた。普通学校への就学を求めて闘う親子や、結婚・出産した重度女性障害者のルポは、障害者が地域で当たり前に生きようとした時に立ちはだかる問題を浮き彫りにした。また、街で次々に介護者を見つけ、車いすで一人旅する青年の報告などは、さわやかな感動を呼んだ。

取り次ぎを通さず、直接読者に届ける販売方式。そこから情報を得て、取材の輪を広げた。反響は大きく、発行部数は一時1万部に。創刊時から編集に携わり、現在は被災障害者支援「ゆめ風基金」代表理事を務める牧口一二さん(79)は「障害者の多様な考えがわかり、目からウロコが落ちる思いを何度もしました」と話す。放送作家で随筆家の故永六輔さん、作家の故松下竜一さんらも快く執筆を引き受けた。

だが近年は、駅や公共施設のバリアフリー化が進んで街に出る障害者が増え、雑誌以外の発信手段を手に入れる人も増えた。編集スタッフの高齢化もあり、一昨年に終刊の方向を決めた。河野編集長は昨年から病気療養中で、その後は副編集長の小林敏昭さん(66)が受け継いできた。

だが終刊決定後も、昨夏に相模原市の障害者入所施設で起きた殺傷事件は、編集部を波立たせた。小林さんは「命に優劣をつける優生思想が表面に出てきたように思えた」とし、「これからもものを言い続けていかなければ」と話す。最終号には「明日に向かって語れ!」と題した座談会、相模原事件に関する取材記事を掲載した。

事務所、ホームページは今後しばらく継続させる。最終号は1部700円。連絡先は編集部(06・6323・5523)。

 

 

■障害者ADR 弁護士会が全国初の開設 法的トラブル、迅速解決目指す /和歌山

毎日新聞2017年8月19日 地方版

https://mainichi.jp/articles/20170819/ddl/k30/040/394000c

 

和歌山弁護士会は、日常生活や仕事、就学などで障害者らが直面する差別的な取り扱い、必要な配慮の欠如といった法的トラブルを解決するための相談制度「障害者なんでもADR」を今月導入した。裁判によらずに弁護士や福祉の専門家らが間に入り、問題のスピーディーな解決を目指す。同会は、障害者に関わる問題に特化したADRは「全国初」としている。【最上和喜】

障害者なんでもADRでは、福祉問題に詳しい弁護士や社会福祉士らが中立的な立場に立ち、申立人と相手方からそれぞれ言い分を聞き取り、双方が納得する形で解決を図る。

同会では想定している相談内容として、▽車椅子や盲導犬などの利用を理由として入店やタクシー乗車を拒否された▽就業にあたり、通院休暇を認めてほしい▽電車やバス利用について分かりやすく説明してほしい--などを例示している。これらに限らず、障害に関わる法律的な困りごと全般を広く受け付けている。解決までの期間はおおむね3~6カ月を目指している。

同会では、これまでもADRによる「紛争解決センター」で一般の人からの相談を受け付けてきた。障害者への配慮を行政や民間事業者に義務付けた「障害者差別解消法」が昨年4月に施行され、障害者からの法律相談が増えているため制度を今月スタートさせた。障害の内容や程度など各相談者の事情に合わせ、点訳した資料を用意したり、手話通訳を手配したりする。

今月9日には、車椅子を利用している和歌山市の50代女性が、住まいの市営住宅のトイレや風呂場の使い勝手を良くするよう、制度開設後、初となる「申し立て」を行った。福祉に詳しい弁護士2人が間に入り、解決に向けて市と協議する。

畑純一会長は「障害者も等しく社会参加できる仕組み作りは大切。制度を全国に広げたい」と語る。

問い合わせは同会(073・422・4580、ファクス073・436・5322)まで。ADRを利用する場合、申立手数料として1万円(税別)がかかる。解決すれば、別途手数料が必要。申立人の経済状況などにより、減免もありうる。同会では利用に先立ち、弁護士による法律相談を受けるよう求めている。

また、31日午後1~4時には障害者向け電話相談窓口「障害者なんでもホットライン」(073・421・6055)を開設する。

■ことば ADR(裁判外紛争解決手続き)

調停や審判など裁判によらない方法で法的トラブルを解決する手続き。専門知識を持つ第三者が中立の立場で当事者の間に立つ。裁判に比べ、簡単な手続きで早期解決が期待できる。原発事故の賠償や金融機関と利用者のトラブル、消費者問題などさまざまな分野で利用されている。

 

 

■相模原殺傷 施設分散の最終報告書を提出

NHK NEWS WEB 8月17日 18時37分

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170817/k10011102651000.html

 

去年、殺傷事件が起きた相模原市の知的障害者施設の再建を検討する神奈川県の部会は、神奈川県の黒岩知事に対し、元の場所での建て替えとともに入所者が一時的に移転している横浜市にも施設を整備し分散するとした報告書を提出しました。神奈川県はことし10月にも再建案を正式決定する方針です。

去年7月、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者など46人が殺傷された事件を受けて、施設の再建案を検討するため神奈川県が設置した専門家らでつくる部会は、今月2日、元の場所で施設を建て替えるとともに、多くの入所者が一時的に移転している横浜市に新たな施設を整備し、分散するとした最終的な報告書をまとめました。

そして、17日、部会の堀江まゆみ会長が神奈川県の黒岩知事に報告書を提出しました。

黒岩知事は当初、元の場所で施設を建て替えるという方針を示していましたが、「報告書に沿って県として分散して小規模化を進めるという新たな方向性をできるだけ早くまとめたい。不安を感じている入所者の家族にもご理解いただけるよう誠意を持って説明していきたい」と述べました。

神奈川県は今後、報告書をもとにさらに検討を進め、今月中に再建案をまとめ、議会などでの議論をへて10月にも正式決定する方針です。

部会の会長を務めた白梅学園大学の堀江まゆみ教授は、「報告書では時間をかけて入所者の意向を確認することを盛り込んでおり、一つ一つ丁寧に進めれば家族の不安を取り除けると思っているので、神奈川県にはそういった形で対応してほしい」と話していました。

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