優生思想

【優生思想】 日弁連が優生手術に対する意見書を出しました

野崎泰伸(障問連事務局)

 

日弁連が、「旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に対する補償等の適切な措置を求める意見書」(*)を取りまとめ、2017年2月22日付けで厚生労働大臣宛てに提出したそうです。この意見書の趣旨は、以下の2点にあるとのことです。

(*)  http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2017/170216_7.html

 

1.国は、旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶が、対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツを侵害し、遺伝性疾患、ハンセン病、精神障がい等を理由とする差別であったことを認め、被害者に対する謝罪、補償等の適切な措置を速やかに実施すべきである。

2.国は、旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に関連する資料を保全し、これら優生手術及び人工妊娠中絶に関する実態調査を速やかに行うべきである。

 

意見書は11ページにわたっていますが、ここではそれを要約して紹介したいと思います。

 

第1の「意見の趣旨」としては、上記2点が挙げられています。

第2の「意見の理由」としては、「旧優生保護法の制定と母体保護法への改正」ならびに「優生思想に基づく優生手術の実施」が挙げられ、前者では旧優生保護法から母体保護法への改正点として、「不良な子孫の出生予防」が削除されたことが述べられています。また後者では、旧優生保護法下での優生思想に基づく優生手術について、本人の同意による優生手術と審査を要件とする優生手術に分類して述べられています。さらには優生手術の男女別の術式や、件数にも言及があります。1949年から1996年までの間に本人の同意による優生手術の実施件数は、同意のある遺伝性疾患を理由とする優生手術が合計6965件、ハンセン病を理由とする優生手術が合計1551件とのことです。また、審査を要件とする優生手術の実施件数は、審査による遺伝性疾患を理由とする優生手術が合計14566件,非遺伝性疾患を理由とする優生手術が合計1909件だそうです。

「優生思想に基づく人工妊娠中絶の実施」について、旧優生保護法下における実態を示しており、1949年から1996年までの間に、遺伝性疾患を理由とする中絶が合計51276件、ハンセン病を理由とする中絶が合計7696件であったと述べられています。

そして、優生手術の有する「人権侵害性及び被害の重大性」について、「子どもを産むか産まないかは人としての生き方の根幹に関わる決定であり、子どもを産み育てるかどうかを自らの自由な意思によって決定することは、幸福追求権としての自己決定権(憲法13条)として保障される」、また、「生殖能力を持ち、子どもを産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかを決定することは、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康・権利)として,全ての個人とカップルに保障される自然権的な権利でもある」としています。さらに、「旧優生保護法は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するという目的のため、遺伝性疾患、精神障がい、ハンセン病等を有する人に対して、一定の要件の下で優生手術及び人工妊娠中絶を実施することができるとしていた。これは、特定の疾患や障がいを有していることを理由に、その人を「不良」であるとみなし、優生手術及び人工妊娠中絶の対象とするものである。しかしながら、人は全て個人として尊重され、人としての価値に差はないのであるから、特定の疾患や障がいを有していることを理由に「不良」とみなすことは到底正当化できるものではなく、これらの者を優生手術及び人工妊娠中絶の対象とすることは著しく不合理である」として、憲法14条第1項の平等原則に反するとしています。

諸外国の例も挙げられており、ここでは強制不妊手術に対して国として正式に謝罪をしたスウェーデンとドイツとが例示されています。

国際機関からの要請とこれに対する日本政府の対応については、国際人権規約の自由権規約と、女性差別撤廃の2つの視角から書かれています。一つ目の自由権規約に関して、「1998年11月にジュネーブで開催された自由権規約委員会において、日本政府の第4回報告書に関する「最終見解」(同年同月19日付け)が採択された。同「最終見解」31項において、「委員会は、障害を持つ女性の強制不妊の廃止を認識する一方、法律が強制不妊の対象となった人達の補償を受ける権利を規定していないことを遺憾に思い、必要な法的措置がとられることを勧告する。」との勧告がなされ」ました。これに対し日本政府は、「実施当時適法に行われた優生手術であれば補償対象とはならない」として「自由権規約委員会が勧告した「必要な法的措置」は何らとらない」としています。その後も、自由権規約委員会は、日本政府に数度、同様の勧告を出しています。

二つ目の女性差別撤廃委員会に関して、「2016年2月にジュネーブで開催された女性差別撤廃委員会において、日本政府の第7回・第8回報告書に対する「総括所見」(同年3月7日付け)が採択された」こと、および「同「総括所見」において、「委員会は、締約国が、(旧)優生保護法の下で、都道府県優生保護審査会を通じて疾病又は障害を持つ子どもの出生を防止しようとし、その結果、障がい者に強制不妊手術を受けさせたことに留意する。委員会は、約16,500件の強制不妊手術のうち70%が女性に対するものであり、締約国が補償、公式な謝罪及びリハビリテーション等の救済を提供する何らの取組がなされていないことに留意する。」(24項)、「委員会は、締約国が、(旧)優生保護法の下での女性の強制不妊手術という形態でなされた過去の侵害の程度に関する調査研究を実施し、加害者を起訴し、有罪を宣告した場合は適切に処罰するよう勧告する。委員会はさらに、締約国が強制不妊手術のすべての被害者に対し、法的救済へアクセスするために支援を提供する具体的措置を取り、補償及びリハビリテーション・サービスを提供するよう勧告する。」(25項)との勧告がなされた」としています。こうした勧告に対する日本政府の対応は、「旧優生保護法に基づいて実施された優生手術は実施当時適法に行われていたのであり、これに対する補償は困難である旨の見解を述べ」ただけで、上記自由権規約委員会からの勧告への対応とまったく同じものでした。

 

この日弁連の意見書は、過去のハンセン病者の隔離、優生手術をめぐって国策としておこなってきた日本政府を厳しく追及するものとして、画期的なものであると言えるでしょう。また、2017年3月1日朝日新聞にも「中絶勧められ「絶対に嫌」と泣いた 障害者の出産に偏見」と題して同意見書を紹介、加盟団体であるBeすけっとの藤原久美子さんも取材を受けておられ、「障害があったとしても、それ自体が不幸ではない。子育てできないなどと決めつけ、奪うことが障害者を不幸にしている」と述べられています。それと同時に、政府が無策であるという態度こそが、障害者を捨て置く社会を拡大再生産し、相模原事件のような事件を引き起こす温床となっているのではないかと思います。現在もなお続く障害者差別をなくしていくためには、過去の出来事に対する真摯な反省がどうしても必要であると考えます。

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