障害者春闘

【報告・続 4/2障害者春闘】 明石市条例/宝塚市の条例制定に向けた取り組み

障問連事務局

 

■明石市の2つの条例~全国初の「合理的配慮の提供支援」と欠格条項の排除

 

青木志帆(明石市福祉部障害者・高齢者支援担当課長)

 

明石市の青木です。昨日、4月1日から明石市では「明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例」が施行されました。他の自治体と違う事をやっているつもりはないんですが、何か先進的なイメージが先行しているなあと思っています。その理由は恐らく新聞報道で流されている合理的配慮の提供に関する民間事業者への助成が全国初の取組にあると思います。

条例では、【第8条】「 市は、市民、事業者及び行政機関等が合理的配慮の提供を容易に行うことができるよう、合理的配慮の提供支援に関する施策を実施する」と書かれていて、これに基づいて、例えば民間事業所がスロープを設置するですとか、メニューに点字を付ける場合には、要した費用の全額または一部を負担するということで、昨日から取組を始めています。

市から「こういう制度がありますが、どうですか」と言うと、最初は皆さん、点字メニューなど必要はないだろうと反応されるんですが、メニューの見本を見せると「おもしろいなぁ」と既に何軒か申し込みいただいて、すでに作って置いてある店舗もいくつかございます。合理的配慮の提供支援として始めたつもりでしたが、どうも普及啓発としての意味が大きいのかと、まだ始まって1日ですが、そんなふうに感じています。

○どうやって紛争を解決するのか

以上の点が突出して見えるわけですが、基盤の部分もちゃんとあります。皆さまが心配されているような紛争解決の仕組みも中に入れています。紛争解決の段階としては、窓口としては市役所の「障害福祉課」および市内の「基幹型相談支援センター」と「発達支援センター」、プラス私が所属している部署、計4か所で電話、ファックス及びメールで受け付ける体制です。こちらで受けた相談について、相手方との関係調整をご本人が希望された場合には、障害者施策担当の私や他のスタッフが進行管理をする中で、きちんとお話しを聞き、相手方からもお話しを聞いて調整していくという相談・助言のシステムを設けています。

それでもなかなか解決が難しいとなった時に、第2段階のあっせん申し立てになり、これは地域協議会の中にあっせん申し立ての部会を作り、弁護士さんや有識者に入って頂いて、どういうあっせんが良いか検討した上で、あっせん案を提示していただくという仕組みを設けています。しかしそのあっせん案でも上手く行かない場合には、行政の方から「勧告」、それでも駄目な場合には「氏名公表」という紛争解決の手続きを取ります。こう申し上げると、じゃあ、勧告や公表のように悪質な事業者にペナルティを課してくれるんだという期待を持たれることが多いんですが、ただ、我々の条例としては、「基本理念」の中で「障害を理由とする差別の解消は差別をする側とされる側が、互いに一方的に非難するのではなく共に協力し合う事によって実現しなければならない」という基本理念を持っていますので、基本的には相談と調整の中で、お互いにある程度の納得感を得て、事案として解決する事をめざしています。

例えば、私は弁護士でもありますが、司法手続きでもこういう考え方に則った紛争解決手続きがあります。例えば離婚や相続のような親族関係での紛争解決においては、まず話し合うと法律で決まっています。話し合う場を裁判所が提供する「調停」を先にやってから裁判になるという仕組みになっていますから、それと同じようなイメージで、まず話し合いの中で解決する事をメインに考えています。そうでなければ、障害のある人とない人が、ずっと一緒に生きていく事が難しくなってしまいます。裁判のように判決のような命令を当事者間に示して、絶対こうしなさいというような紛争解決ばかりですと、勝った方は嬉しいですが、負けた方はかなりイラっとしながら生活しないといけないというような紛争解決の限界もありますので、そう言う事にならないように、ある程度お互いが歩み寄って一緒に話をしながら共生の街づくりをしていきたい、それがこの条例の目標になります。

そういう思いもありますので、市の責務として「合理的配慮の提供のあり方について積極的に調査及び研究し、率先して合理的配慮の提供を行う」とされ、市として積極的に合理的配慮を市民に示していかないといけない、それは合理的配慮とは何かを態度も含めて説明してやっていくんですよ、と謳いつつも、その合理的配慮の普及については市民、事業者の皆さんと一緒に協力しながらやって行く事がきちんと書いています。

○明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する条例

合理的配慮を提供していかなければならない、社会的障壁を取り除いていかなければならない、そんな思いの中から出てきたのが、2つ目の条例「明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する条例」です。なぜこの条例が出てきたのか。条例を検討している最中に障害のある人の職員募集をかけました。職員の募集をかけると、通常、身体障害者で自力通勤可能という条件が課せられるのが大半なんですが、もう少し踏み込んで行こうと、身体・知的・精神・発達・難病、この5類型全てから広く募集して、その中から職員を採用しようという、かなり踏み込んだ職員採用を行いました。「こういう職員採用を行います」と条例検討会にご報告したところ、検討会に来ていただいていた弁護士さんから「地方公務員法には、成年被後見人とか被保佐人になっているような方は公務員に任用できないとされているが、どうするのか」と言われまして、これは大変だと。知的や精神障害の方の中には採用できない人も出てくるのではないかとなりましたが、地方公務員法の同じ条文に「条例で定める他」と書いてあったので、じゃあやりましょうということで、差別解消条例と一緒に定めたのが、この3カ条の小さな条例です。これもきちんと成立していますので、今後、知的、精神障害の方を明石市として任用したいと思った時でも、被後見人であっても問題はありませんし、いま現在働いている方で被後見人になった場合でも失職する事はないという状態に明石市ではなっています。これはご本人の権利を守る制度である後見制度が、後見が付いている事によって任用されない、働けないような権利制限はよろしくないだろうと、差別解消の一環として、急きょ突貫工事で成立しました。

明石市の条例で特徴があるとすれば、合理的配慮の提供支援と、この欠格条項を条例で排除した事、この2点になってくるかと思いますが、本質的な差別の解消に関する取組については、あまり他自治体の条例と大きな違いはないと考えていますので、ひょっとすると不十分な点があるかもしれませんが、本日来られている尾上さんや皆様からご意見を頂いて考えていきたいと思います。

 

 

〈※資料  明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する条例〉

第1条(趣旨)この条例は、障害者の自立と社会参加の促進を図るため、地方公務員法(昭和25年法律第261号。以下「法」という。)に基づき、明石市職員の任用基準を定めるものとする。

第2条(職員となる機会)任命権者は、法第16条第1号に該当する者を、職員として採用することができる。

第3条(職員としての地位)法第28条第4項の規定にかかわらず、職員が法第16条第1号に該当するに至った場合であっても、当該職員は失職しないものとする。

附則:この条例は、平成28年4月1日から施行する。

(提案理由)本案は、障害者の自立と社会参加の促進を図るため、職員の任用基準に関し必要な事項を定めることにつき、新たに条例を制定しようとするものである。

 

■2019年1月~施行される宝塚市の条例 (完全施行は7月~)

塩見 淳(宝塚市健康福祉部障害福祉サービス調整担当課長)

 

宝塚市健康福祉部の塩見と言います。肩書き上、福祉サービス調整担当になっていますが、差別解消法を担当しています。明石市では昨日から条例が施行されていますが、宝塚では取組が遅れた関係で今年度当初には間に合いませんでしたが、条例制定に向けて取り組んでいる所です。

○障害者団体、市議会の取組~市長の宣言

以前から市議会の中や団体からも条例はどうするのかと質問されましたが、結論が出ないまま年月を重ねていましたが、一方で障害者団体のシンポジウムとか市職員も講演会を行なったり、市議会でも政策研究会が設立され政策的な研究が行われ、宝塚市長もそういう場によく参加されました。具体的には昨年1月に障害者団体によるシンポジウムが開催され、市長も参加され、その挨拶の中で、条例を作りますと宣言されました。また2月の市議会の施政方針の中で差別解消法の一層の浸透を図るために弁護士も含めた協議会を設置するとか、具体的に権利擁護や障害者福祉の啓発に向けて積極的な相談を行う等、述べられました。当初予算は既に議会に示されていましたので、すぐには動けませんでしたが、2月に2人の職員の配置が決まりまして、そこから動き始めました。以上が経過です。

○制定に向けた組織とタイムスケジュール

次にスケジュールですが、予算が付いたのが9月補正予算でしたので、半年間は予算のない所でのスタートでした。その中で条例を作るためには、障害のある方の意見を聞こうと平成27年2月に「宝塚市障害者差別解消について考える会」が設立しました。公募で7人の障害当事者の方に入って頂きました。今回は知的障害の方の応募はなかったんですが、身体障害、精神障害、発達障害、色んな障害の方が集まり、一方では相談支援や福祉事業者の方、病院関係者など色んな立場の方が集まっています。

また条例を作るためには社会福祉審議会での審議が必要になりますが、10月に開催され、「考える会」での議論結果を踏まえ検討して行く事になりました。また7月~8月にかけて市民からの意見募集として、どんな差別を受けたことがあるのか、こんな合理的配慮を受けたことがある、あるいはこんな配慮をして欲しかった等の意見募集を行おうと、広報やホームページでの案内、また色んな障害者団体や事業所を回り、370件ほどの意見をいただき、条例作りの参考にしました。

平成28年4月に法律が施行されますので、その段階では相談窓口の開設、地域協議会、職員対応要領などが、条例とは関係なく法律に合わせ準備しました。条例については審議会での答申を踏まえ、パブリックコメント等の手続に時間を要しますが市民から意見を頂き、市議会で承認していただき、それから条例がスタートします。時期は平成29年1月になります。そこで急に公表すると事業者もびっくりすることになりますので、半年間の周知期間もあわせ平成29年7月には紛争解決の仕組みも設置します。

条例を作るに当たって、どういった組織の機関があるのか説明します。メインとしては社会福祉審議会ですが、ここだけで作るのは難しく、審議会の専門分野として臨時委員も含めた小委員会を設け、メンバーは、障害者団体、商工会議所の方も含め14人で構成され、提案された条例案について検討します。この条例案を事務局が作りますが、さらにメンバーを増やし公募委員やあらゆる分野の方も含めた20人の委員による「考える会」で検討していきます。社会福祉審議会の小委員会では、1回目には条例の骨子案を審議し、2回目には条例案そして今月の中旬にも条例案を審議します。

○当事者を中心とした「考える会」

そして「考える会」ですが、条例案を考えるだけでなく、これからの取組を研究していこうと、1回目には、法律の説明から始まりますが、市民にどう行ったことを聞くのかを検討し、2回目から公募市民にも入って頂いての検討が始まり、2回~5回を経て、さ来週には6回目を行います。特に議論になったのは合理的配慮の提供や不当な差別的取り扱い、法では正当な理由や過重な負担があればかまわないといった点について、具体的には個別の事案によりますが、参加された委員からは「何か基準はないのか」「誰がジャッジするのか」との意見はありましたが、事務局としては「個別の事例ごとに話し合います」とハッキリしたお答えができなかったんですが、個別に具体的に考えていくしかないと思います。

続いて、4月以降の具体的な取り組みについてお話しします。法の中にも「障害者差別解消支援地域協議会」が示されていますが、設置のやり方は色んなやり方がありますが、宝塚市では「代表者会議」と「実務者会議」を今年から作ろうと考えています。既存の組織を使うということで「自立支援協議会」、これを代表者会議を置き、「考える会」を「実務者会議」として4月から実施していきます。会議としての開催は5月に合同の研修も兼ねて行います。

○相談体制を重点課題として

また4月以降、宝塚市として力を入れているのが「相談体制」。8月の市民の募集での意見や「考える会」で出された意見として多かったのが、法律上は「行政機関」と「民間事業者」を対象としていますが、近隣の人からの差別、また家族からの差別、知らない人からの差別などが上げられましたので、対象については、「障害を理由とした差別」であれば、相手が個人であっても受け付けることになりました。また、民間事業者からの相談も受け付けますし、宝塚市民でなくても、たまたま宝塚に来て受けた差別も対象とすることになりました。

メインの相談機関としては、1つは宝塚市役所の障害福祉課、もう1つは権利擁護支援センター、この2か所を窓口として相談を受け付けています。また一方で宝塚市役所の職員がした差別についてですが、例で言うと、市役所の窓口で申請しようとしたら保護者の付き添いが無ければ受け付けないといった対応、あるいは市が主催するイベントで人が多くてパニックになった時に、理由も聞かずに参加者に迷惑だから出て行かされた、こんな不当な差別的取り扱いがあった場合には、イベントであれば主催する担当課、また人事課、障害福祉課に相談していただければと思います。

さらに一般的な相談に差別的な事案が含まれていた場合ですが、市民からの意見募集では、幅広く窓口で受け付けて欲しいという希望があり、例えば高齢者であればケアマネージャーや地域包括支援センターが受け付けるとか、障害者であれば指定特定の相談支援事業者が、一旦、そこで話しを聞いてもらって、内容によれば権利擁護支援センターにつないでいき相談できるように事業者にも説明に回りたいと思います。

もう一点、「対応指針」という主務大臣による指導勧告という仕組みがあり、市が設置する以外にも活用することができます。最後に相談体制のフローチャートにつきましては資料を見ていただければと思います。

« »