新聞記事から

【報道】 新聞記事より

■女性障害者 尊厳守れ 妊娠・出産巡る差別、国連で訴え

毎日新聞2016年1月31日 東京朝刊

http://mainichi.jp/articles/20160131/ddm/041/040/070000c

 

神戸市の視覚障害者、藤原久美子さん(51)が2月、国連女性差別撤廃委員会の対日審査に合わせてスイスに渡り、日本は女性障害者の尊厳が十分に守られていないと訴える。医師から妊娠中絶を勧められた経験を基に、同じような境遇の仲間と、障害があっても女性として暮らしやすい社会の実現を求める。【林田七恵】

藤原さんは1型糖尿病の合併症で、34歳の時に左目の視力を失った。右目も見えづらくなり、「はよ子供産んで」が口癖だった母は何も言わなくなった。諦めかけていた40歳の時、妊娠が判明した。

ところが、産科医から初診で「障害があるのに育てられるの?」「障害児が生まれる可能性がある」と畳み掛けられた。「どうしても産みたい」と訴えると「いったん流して、2人目の時に態勢を整えて産みなさい」と勧められた。

新しく宿った命を喜ぶ夫が支えとなり、意志を貫いて女の子を出産した。「ふわふわで柔らかくて羽二重餅みたいだった。手足も小さくてかわいくて」と当時のうれしさを振り返る。娘は今10歳。共働きの夫妻に手を貸す双方の実家も含め皆のアイドルだ。バレエを習いアニメ「妖怪ウォッチ」に夢中という。

社会の無理解を感じている女性障害者は少なくない。藤原さんが加わる当事者団体「DPI女性障害者ネットワーク」(東京都)には、性や妊娠・出産を巡って悲痛の叫びが寄せられている。

藤原さんも階段を下りる際、手助けを申し出た男性に腰を抱えられたことがある。下心があったのかは分からないが、「平気で触れるのは障害者を性がない存在と思っているから」と感じた。

国連女性差別撤廃委員会は昨年7月、スイスで作業部会を開き、女性障害者の実情について日本政府に報告を求めるテーマを決めた。藤原さんはDPI女性障害者ネットワークの一員として作業部会のヒアリングで「性を軽んじ妊娠・出産を非難するのは、人として扱わないことと一緒」と陳述した。

委員会は翌月、日本政府への質問を公表した。旧優生保護法下で不妊手術を受けさせられた女性への補償や、女性障害者が受ける性暴力について明らかにするよう求めた。

藤原さんは、委員会が日本政府の報告を聞いて審査するのに合わせた今回のスイス訪問で、改めて女性障害者の権利が守られるよう訴える。「障害者は能力がないから差別も仕方がないなんて、固定観念で片付けないでください」

子宮摘出勧められ、知らぬ間に不妊手術

「不良な子孫の出生防止」で障害者の不妊手術や中絶を認めた1948年施行の旧優生保護法の下、記録が残るだけで約1万6500人が不妊手術を受けさせられた。96年の母体保護法への改正で、ようやく規定は削除された。しかし、2011年にDPI女性障害者ネットワークが全国の女性障害者87人に行った調査では、女性であることを否定されたとの声が相次いだ。

「月経介助を嫌がる身内に『生理はなくていいんじゃない』と子宮摘出を勧められた」(脳性まひの40代)、「婦人科で『こんな状態でどうやって(性)行為をするの?』と言われた」(肢体不自由の30代)、「障害を理由に結婚に反対された」(複数)−−。回答者の35%は「暴行を受けた」「介助中に胸などを触られる」といった性的被害を申告した。

昨年6月、知らぬ間に不妊手術を受けさせられた宮城県の60代女性が日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。憲法は個人の尊重を定めているが、代理人の新里宏二弁護士は「個人の尊厳に最も関わる問題なのに、周囲は善意で手術を勧めた。そこに問題の根深さを感じる」と語る。国連人権委員会は1998年、日本政府に優生保護政策の補償を勧告したが、障害者に対しては行われていない。

■障害者の貧困率は健常者の倍 4人に1人以上 慶大教授ら初算出

東京新聞 2016年2月16日 朝刊

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016021602000133.html

 

生活に苦しむ人の割合を示す「相対的貧困率」が障害者では25%を超え、四人に一人以上が貧困状態にあることが山田篤裕・慶応大教授らの研究グループの調査で分かった。障害のない人の数値に比べほぼ二倍だった。

障害者が働ける場が少なく、賃金も安いほか、障害年金など公的な現金給付の水準が先進国の中で低いことが主な要因だ。

政府は全人口や十八歳未満の子どもを対象にした貧困率は計算しているが、研究グループによると、障害者に限った数値の算出は初めてという。

厚生労働省の科学研究費による調査で、同省が貧困率の計算に使っている国民生活基礎調査(二〇一三年実施)のデータを分析した。

「障害や身体機能の低下などで、手助けや見守りを必要としていますか」という調査票の質問に「必要」と答えた人を対象に、年代別に貧困率を計算した結果、二十~三十九歳では28・8%、四十~四十九歳は26・7%、五十~六十四歳は27・5%だった。

障害のない人では、それぞれの年代で13・8%、13・4%、14・6%と半分程度にとどまる。厚労省が公表している全人口(障害者を含む)の貧困率は16・1%。

研究グループによると、日本の障害者の貧困率は先進国の中で高い部類に入り、障害のない人との格差も大きい。

山田教授は「日本の障害者の貧困が深刻であることが分かった。貧困からの脱出には就労が有効であることがうかがえ、本人や家族の就労を後押しする政策がもっと必要だ」としている。

相対的貧困率 全人口のうち、生活の苦しい人がどれだけいるかを示す指標。1人当たりの可処分所得を高い人から順に並べ、真ん中となる人の所得額(中央値)の半分に満たない人が全体に占める割合で表す。可処分所得は収入から税金や社会保険料などを除き、公的年金などを合計した金額。世帯の可処分所得と人数を基に計算する。資産は考慮しない。

 

 

■聴覚障害者、選挙が身近に 候補者演説など「要約筆記」に報酬OK

東京新聞 2016年2月18日 朝刊

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016021802000140.html

 

聴覚障害がある有権者のために、候補者の演説などを文字で簡略に伝える「要約筆記」に対し、政党や候補者が報酬を支払えるようにする公職選挙法改正案が、今国会で成立する見通しになった。夏の参院選から適用される公算。従来、認められていた手話通訳への報酬の支払いに加え、要約筆記への報酬も認められて利用が広がれば、聴覚障害者が選挙に参加しやすくなる。 (大杉はるか)

聴覚障害者は手話の苦手な人もおり、要約筆記へのニーズは大きい。厚生労働省の調査(二〇〇六年、複数回答可)では、聴覚障害者がコミュニケーション手段として挙げたのは「筆談・要約筆記」が30・2%で、「手話・手話通訳」(18・9%)を上回った。

一三年の公選法改正で選挙運動のための屋内での映写が認められ、要約筆記も表示できるようになったが報酬の支払いは買収に当たる恐れがあるとして禁じられてきた。民主、維新両党はこれを解禁する公選法改正案を近く提出し、与党も賛成する方針。報酬額は、政党が支払う場合は「社会通念上妥当な額」(総務省)、候補者による支払いは政令で基準額を定める。

手話通訳には〇〇年の同法改正で支払いが認められた。法改正で要約筆記の普及が進めば、聴覚障害者はより多様な手段で投票の判断材料を得られる。全国要約筆記問題研究会の三宅初穂(はつほ)理事長は「政党や候補者が、聴覚障害者にも政策を伝える手段が必要と気づいてくれたら」と期待する。

一方、視覚障害者への対応は遅れ気味だ。選挙で政党などから点訳者への報酬支払いは認められておらず、今回の法改正でも対象外。改正案作りに携わった民主党の黒岩宇洋衆院議員は障害者の政治参加を「一歩ずつ前に進めたい」と話している。

<要約筆記> 講義や研修などで発言者が話すと同時に要約文をつくり、聴覚障害者らに読んでもらう情報伝達手段。手書きしたノートやパソコン画面を直接見てもらったり、スクリーンに映し出したりする。厚生労働省によると、登録試験に合格した要約筆記者は2013年度末現在で3513人。国内の聴覚障害者は推計約32万人(11年度調査)。

 

 

■障害者総合支援法 厚労省が改正案 「65歳問題」救済策 介護の自己負担分支給

毎日新聞2016年2月20日 東京朝刊 黒田阿紗子

http://mainichi.jp/articles/20160220/ddm/012/010/050000c

 

障害福祉サービスを利用する障害者が65歳になると原則1割負担の介護保険サービスに切り替わる制度について、厚生労働省は19日、実質的に自己負担をなくす障害者総合支援法の改正案をまとめた。今国会に提出し、2018年4月の施行を目指す。

障害福祉サービスは介護保険と同様、利用料の1割を自己負担するが、障害が重いほど必要なサービスが増えて負担が増すことなどから、10年に利用者の約9割にあたる低所得者は無料になった。しかし障害者総合支援法は、同じサービスがある場合は介護保険を優先利用するよう定めているため、65歳になると新たに負担が生じるほか、サービスの質や量が変わることに批判が出ていた。

改正案は、介護保険への切り替えで発生した自己負担分を、同法が規定する「高額障害福祉サービス等給付費」の対象として支給できるようにする。対象は、65歳になる前に一定期間障害福祉サービスを利用した低所得者を想定。具体的な支給条件は今後検討し、政令で定める。

また、切り替えによって長年利用してきた障害福祉サービス事業所を利用できなくなるケースがあるため、これらの事業所が介護保険事業所として指定を受けやすくなるよう運用を見直す。同じヘルパーなどから継続して支援を受けられるような仕組み作りを進める。

 

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