【他団体の取組】 障害年金の支給停止・減額に抗して
12月12日、新聞報道で、「8万人が支給停止・減額の恐れ 障害年金で医師団体推計」と衝撃的な記事が出ていた。国は、障害年金の支給・不支給判定に大きな地域差があるのを是正するため、新しい判定指針を策定したが、愕然とする事態。神戸の「自立生活センターリングリング」さんが、厚労省に抗議文を送られたので、転載させていただきます。
2016年1月8日
厚生労働大臣 塩崎恭久 殿
兵庫県神戸市兵庫区中道通6丁目3番12号
自立生活センターリングリング 代表 中尾悦子
年金新指針(障害者年金の減額・支給停止)についての抗議文
平素より障害者の地域移行、地域生活にご尽力いただきありがとうございます。
私たちは神戸で活動する障害持つ人の尊厳と人権を守り、障害者の地域社会での自立生活を進める障害者当事者団体です。
この度の年金新指針による障害者年金減額・支給停止についてのニュースを見て大変ショックを受けています。この支給減額・停止は、障害者(特に今回は精神障害者・知的障害者・発達障害者)の生活とその尊厳を脅かし、場合によっては生命を奪うものであるということを、危機感を持って訴えます。障害基礎年金は、生活の基礎となる大変重要な生活保障です。全ての人の権利です。貧困や差別の中でも築き上げて来た私たちの大切な暮らしを、簡単に壊さないで下さい。
受給の地域格差があるのは、様々な理由・背景があります(人口密度の違い、地方は町のバリアフリーがないことや根強い差別問題など障害者が生活しづらい)。しかし、それらは障害者の側の問題なのでしょうか。地方にも年金を取得するべき障害者は大勢いるはずです。それをなるべく少なく見積もろうとし、一人ひとりの権利の主張がしづらい社会の形成をしてきた厚生労働省の責任こそが問われるべき時ではないのでしょうか。もし本当に格差を是正する気があるのであれば、地方でまだ年金を申請できていない方や、申請をはじかれてきた方たちに対して支給していくことができます。そういうことを一切せずに、格差を理由にして更なる切り捨てを行うことは許されません。
障害者年金を減額・停止することは、生活困窮者を作るだけの行為です。年金を減額または停止しても、生活基盤となるだけの職業にすぐに就くことは、個々人の病状からも社会システムからも非常に困難だからです。年金を減額・停止することは、生活困窮や将来の不安からの自殺、病状の悪化から入院者を急増させるでしょう。生活困窮のため病院にも行けない人は、生活を維持できず路上生活を強いられることなども予測されます。
精神障害者が仮に就職できた場合、継続的に働くことは就職よりさらに難しく、生活を維持できる収入を得るための長時間勤務などは相当にハードルの高いものです。これができる精神障害者は多くはいません。就職時の偏見や差別があったり、合理的配慮がなかったりで、ストレスから体調を崩さざるを得ない場合があるでしょう。こうしたことは、医者や専門家が考える以上に厳しい道のりです。
「障害者は施設や病院に入っていればいい」、「家族が面倒を見ればいい」、「自立生活なんてお金がかかる。とんでもない」という考えに立って、日本政府は障害者政策を進めてきているのではないでしょうか。(精神障害について言えば、実際に、精神障害者を病院周辺に隔離する病棟転換型居住系施設も進められています。また医療保護入院の条件を簡単にする法改正も行われました。そうした流れの中で年金を減額または停止することは、精神障害者の地域生活を妨げ、長期入院を助長する行為となるでしょう。)
私たちは「障害者」として多様なハンディを持っています。しかし、そのことを理由に閉じ込められることを否定します。障害を持っているからといって、権利を持った一人の人間であることに変わりありません。地域で自立して暮らす権利があります。そもそも私たちの障害は、私たちが持っている様々な困難さ以上に、社会自体が持っている差別や構造的暴力が何よりもの「障害」なのです。今、社会形成への責任がある政府や行政の責任こそが問われています。
私たちは、どんな困難な状況の人も「人間」として生きていくことができる社会こそが、平等な社会・世界の実現につながると信じています。平等な、生命を大切にする社会を実現するために、政府は市民の「障害を持っていても自分らしく生きる権利の行使」を認めるべきです。生命や尊厳を奪うことに税金を使うのではなく、経済的利益を最重視するのではなく、そうした人間の権利を守る政策に方向転換してください。
障害基礎年金を受給することは、障害を持ってこの国で生きる上で最低限度の権利であり、精神障害者・知的障害・発達障害のみならずすべての障害者の尊厳を奪い基本的人権を侵害する行為です。現在受給している1級2級年金受給者の年金引き下げ、または支給停止することを絶対にやめてください。
2月 2, 2016