編集後記
私事ですが、今年度は障害者差別解消法の周知期間ということもあり、私が担当する授業でも障害者権利条約や差別解消法について触れました。その一環ということもあり、差別解消法でも触れられている複合差別について、障問連加盟団体の生活支援研究会の理事長である野橋順子さんをお呼びして講演していただきました。障害女性の抱える、障害者であることと女性であることとによる二重の差別というよりも、障害者であることで女性差別が、そして女性であることで障害者差別がそれぞれ強化されてしまっていることが野橋さんの講演から強く感じることができました。野橋さんの受けられた差別体験があまりにもショックでうまく言葉にならないと言ってくれた受講者もいました。遠路はるばる来ていただいた野橋さんにこの場を借りまして感謝申し上げます。
これまた私事ですが、私の論敵である倫理学者ピーター・シンガーという人が新著を出し、曰く「効果的利他主義」という道を推奨しています。その大要は、「盲導犬の訓練よりも失明治療のほうがコストが安いなら、失明治療への寄付をしたほうが効果がある」というものです。一見すれば正しいようにも思えますが、この「効果」というのは「費用対効果」という意味においての「効果」であり、視覚障害者の生活のしやすさという観点に立った「効果」ではないはずです。このような「効果」の取り違えが、この国の社会保障政策においてもなされているように思えてなりません。シンガーは、ドイツの障害者団体に「ナチスドイツの再来だ」と言って過去に講演をキャンセルさせられた学者でもあります。私たちも、より一層の粘り強い闘いが必要です。
6月 1, 2015