労働問題 障害者春闘

【報告】4/4障害者春闘 兵庫県下の障害者雇用の現状/雇用における差別解消の課題

4月4日、兵庫県民会館において表記のシンポジウムが兵庫県の後援も受け開催された。シンポジウム終了後、県民会館から三宮の神戸市役所/花時計までデモ行進が行われた。

 

講師:金政玉さん(明石市福祉部福祉総務課障害者施策担当課長)

テーマ:「雇用における差別解消の課題」

高井敏子さん(社会福祉法人はぐるま福祉会理事長)

テーマ:「兵庫県下の障害者雇用の現状」

2016年4月から「雇用における差別解消」が「改正/障害者雇用促進法」において施行されようとしている現在、改めて私たち自身が、障害者の就労/雇用における差別解消について、どのように考え取り組んでいくのか、まず「学ぶこと」が必要、そんな思いで、今年度障害者春闘を開催しました。以下、お2人の講演内容を中心に報告します。

 


■金政玉さんの講演

金さんは昨年5月から明石市障害者施策担当課長として赴任され、手話言語等コミュニケーション条例の制定、それを踏まえこれから差別解消条例の制定に向けて取り組んでいく事を、自己紹介も含め話された。またご自身の就労体験として写植の職業訓練校に行き、ハローワークに行っても短期間の契約社員の仕事しかなく、雇用助成金目当てなのかと疑問に感じたこと等お話しいただいきました。

また、東京に転居されDPI日本会議の専従職員として活動する中で、弁護士から「裁判をやりましょう」と持ちかけられた。内容は、障害者雇用率の未達成企業の公表を国に求める裁判。裁判と同時に厚労省に情報開示を求めたが却下、その上で内閣府の情報公開審査会に申し立てたところ、半年を経て意外にも請求が認められ、裁判も実質勝訴して終えた。だから現在も各都道府県の労働局に行けば未達成企業の情報は公表されるので活用していけますよ、と助言を頂き、そんな経験も含め「雇用に関しては思い入れがあるんです」との前置きから講演は始まりました。

講演の本題は、基本的な知識のおさらいとして権利条約、障害者基本法の柱である「障害のある人とない人との平等」に必要な「差別禁止」、それを具体化するために「差別解消法」が制定されたこと。そして差別解消の大きな課題が「合理的配慮の提供」、そのキーワードが「必要な変更と調整」、これらの内容を時系列に分かりやすく法制度の変遷とポイントを説明されました。

雇用に関する差別解消は「改正障害者雇用促進法」において実施されます。「最近、企業の人事担当者と話ししていると、みんな、どうしていいのか分からないと慌てている」、「社員募集の際にどうしたら良いのか、この人の障害について聞いていいのか、また大企業等では総合職として採用するが、いろんな仕事を覚えたり、色んな部署に行かないといけないが、障害者にそんな事ができるのか等、基本的なことから実際の場面について理解されていない」と話されました。

改正雇用促進法では、まず「募集/採用」の問題。例えば聴覚障害者が募集に応じるためには電話では話せないため、問い合わせ先としてFAX番号を明示する事が必要、また面接の際には手話通訳者の同席を行うなど、障害に応じた配慮が求められる。また、採用後においては、障害を理由とし本人の希望も聞かずに勝手に部署を決める事はダメ、社内に相談員を置く事、採用後1~2年過ぎ職場環境等の変化もありきちんと定期的に話し合う事、このような企業内の体制作りが極めて重要だと話されました。

また何か差別と思われる事が起きた時には、まず企業が自主的に解決することが必要、しかしそれでも解決できない事もある。このような雇用以外にも起きえる様々な差別/相談事例について話し合う機関が「差別解消支援地域協議会」。差別解消法が施行される際に、これが大きなポイントになる。同協議会は「労働局・ハローワーク」等の国の出先機関、自治体関係機関、企業、障害者支援のNPO団体等により構成される。この役割の重要だが、各都道府県、各市町村では設置が「義務」ではないため、設置を求めていく取組も必要と話されました。

 

 


■高井敏子さんの講演

高井さんは31歳の時、「全くの福祉の素人」だったが、知人に誘われてこの道に入られた。加古川ロータリークラブの25周年記念事業として社会福祉法人+建物もプレゼントされハッピーなスタート。しかし、「障害者は施設にいる事が幸せ」が当たり前の時代に、「はぐるま」でなく「荷車」と揶揄され社会との軋轢もありながら始まった。「素人」だからこそ、障害があってもなくても大人になれば「働く事が当たり前」と自然に思って取り組んできた。高井さんご自身、若い頃に勤められた会社では、集団就職で来た人の中に、今から思えば障害のある人がいたこと、自然に皆で手伝ったこと、そんな経験もあったそうです。

・施設は保護する所でなく、働く力/生きる力を施設でしっかり養って社会へ送り出す事。

・どんな人も得意な事がある、得意な事がなければ興味・関心のある事を見つけること。

・安心できる環境が人を育てる、そんな働く環境づくりが必要。

・人に合わせた仕事を見つけるために施設内でも1つでも多くの作業種を準備する。

・その人に相応しい仕事の場の提供~そのための補助具の提供と開発。

・仕事がないとやる気は起きない。納期を守り正確な仕事をすれば、向こうから仕事はやってくる。

・スモールステップ、やったらできる事の積み重ね。

・自分から「仕事をしたい」と来る人もいるが、親に言われ「働かされている」と思う人に、「働きたい」と思える環境づくり。

 

○施設外就労へのチャレンジ

・・・・こんな事を理念に持ちながら、もう一つ重要な取組として、27年前から始めた「施設外就労」。施設の中より一般の会社で力が発揮できる人もいる。会社の働く場所を作ってもらう。職員と一緒に会社を探して場所を借りて働きだした。就職に近い人でなく障害の重い人、難しいと思われる人を連れて行く。会社には多種多様な仕事がある。色んなおっちゃんやおばちゃんがいる。差別や偏見もうけるが、応援団になってくれる人もいる。

・多くの家族は施設にずっといさせて欲しいと言う。そんな家族を安心させるためには「終結のない定着支援」と、もし退職した時に帰ってこれる場所を確保しておくこと。定員を越えても受け入れた。

・阪神大震災の時には企業も大変な状態、会社に帰して下さいと伝え、一杯帰ってきた。

・本人の不安、家族の不安、企業の不安、そのあ3つの不安にトータルで取り組む事。

・・・しかし、一法人、一施設では限界。国や県に「トライヤル雇用」や現在の「就労・生活支援センター」を提案した。

○「障害者就労・生活支援センター」の取組

① 働きたい人の就労と生活を支える

② 障害者を雇用する企業を支援する

③ 公共性の高い地域の社会資源として存在する

④ 関係機関とのチーム支援

⑤ 働き続けるためのトータルコーディネーター

対象者は意思表示が難しい人。最初は知的障害者が多かったが、最近は他障害の人も増え、累犯障害者の支援もしている。同センターは訓練の場ではなく相談支援が中心。精神障害者で家族関係が上手くいかない人には家族間調整も行う。加古川市と3市2町に1か所しかなく、職員は3名しかいなく厳しい。

 

○やっと始まった「就労移行支援」

・自立支援法には色んな問題はあるが、初めて「就労移行」が国の制度に盛り込まれ、やっと雇用への道筋ができた。支援者にはプレッシャーがかかるが。2年内に一般就労させると目的が明確。

・全国で30%の就労移行支援事業者が就職0。覚悟が足りない。

・しかし、本人の思いを支える事と事業経営には大きな狭間がある。今年度も「はぐるま」では、3月に7名が就職し、現在15人で運営は厳しい。

・本人評価表には22項目ある。しかし、それはできないこと探しではない。どんな配慮が必要なのかを明確にするもの。

・施設の中でやれる工夫が企業でもやってもらえるのかを考える事。

・評価表を破り捨てる人もいる。けれど、できないことをどう改善していけるのか、それを探しだす大切なツール。

・個別支援計画・・・本人の望む生き方、働き方、権利擁護の視点に立つ事。

・一般就労しても継続できない大きな原因は「生活」。会社に入ると人間関係も変わる。しっかり定着支援する。世の中には悪い人が多くいる。本人も寂しいと短期間で何十万円もだまし取られる人もいる。

・暮らし全般を支える事。親の高齢化により1人暮らし、グループホーム、その人の生活が成り立つ暮らしを応援する。

・就職して3年~10年の安定期、生活の広がりとともに危ない事もある。また、高齢になって本人がつぶれるようになるまで無理をして働き続ける事も良くない。ソフトランディングできる後退も必要。

 

○企業に求める事

・昔は米つきバッタのように会社の人に頭を下げ続けていた。しかし今は、会社の中に支援者を作ってもらうこと、そんな人材が育てられるように私たちが支援すること。

・雇用すると決めたのは企業の経営者。雇用した以上、責任を持ってもらう。

・雇用されても職種に偏りがある。職種を広げて欲しいし、そのための環境整備の取り組み。

・ただ、働けばいい、ではない。人に値する労働を雇用者は提供するべき。

・フルタイムで働ける人にも短時間を強いる。助成金の枠もあるが、それはおかしい。フルタイムでなければ自立できない。

 

○課題/兵庫県の状況

・毎年、新規に就労する人は確実にいる。一方で辞めて行く人がいる。離職する理由や実態が追求されていない。埼玉県では平成23年度に離職に関する調査が行われ報告書がまとめられる。

・離職した人がもう一度チャレンジしていけるように、それと差別禁止がうまく機能していくこと。

・兵庫県で特別支援学校卒業者が一般就労する人の割合は全国的にも低い。

・障害のない人も高校や大学を卒業してから専門学校に行ったり、なかなか就職が決められない人もいる。特別支援学校を卒業してすぐに就職しなければと焦らないで良い。福祉でワンステップ置く。

・学校は職業訓練の場ではない。何のために働くのか、職業教育をして欲しい。

・ジョブコーチの利用数は全国でも兵庫県が最も多い。

・県内に特例子会社は18か所。定期的に勉強会を開催している。

・職種は、昔はほとんど製造業、現在はサービス業、量販店の品出し、スーパー、ユニクロ、スポーツ店。病院・施設の清掃。ベッドメイク。

・私たちが相手をするのは総務課・人事課の人。でも実際に一緒に働くのは現場の人。雇う部署と現場に認識のずれがあったり、会社の中で共有されていないことが多い。障害者だけでなく、社内でしんどくなった人も含めての「環境整備」を会社の中で取り組んで欲しい。

・障害者雇用率制度には問題もあるが、日本の風土には合っていて、雇用率があったから徐々に浸透していった。法律を通じて会社に障害者問題を提起してきたから、確実に変わってきている。

・雇用率を達成できいない会社には「障害者雇用納付金」を支払い義務があるが、現在は200人以上の会社だが、平成27年度から100人以上になる。

・自立支援法で初めて「就労継続A型」ができたが、それまでの福祉工場等以外は全く増加しなかったが、平成23年頃~急激に増加している。この2年で87ヶ所も増加した。全国でもトップレベル。

・しかしその多くが勤務時間が4時間とか短い。A型の平均賃金が6万8千円。生活できる賃金ではない。また、A型は福祉サービスとして存在しているが個別支援計画でフルタイム勤務を目指す等が盛り込まれず、2年が過ぎれば自然消滅するとか、福祉サービスとしてのルールが守られていない実態も聞く。

・姫路市では、ハローワーク経由でも、一旦福祉の窓口を通し、それから求人票を出すなど、行政/ハローワーク/就業・生活支援センターの3者がルールを決め連携している。

 

 

■就労継続A型の全国ネットが設立/総合支援法の見直し

お2人の講演の後、会場からの質疑応答も交え、活発に議論されましたが、高井さんのお話しでもA型事業所の現状と問題点が指摘されていましたが、最近、A型事業所の全国ネットが設立されました。神奈川新聞で連載され、内容が多岐にわたって掲載されていますので、紹介します。

 

★以下、神奈川新聞の連載記事となっています。視覚障害その他の理由で読みづらい方もおられるかと思います。神奈川新聞のサイトで、同じ記事があがっていますので、こちらのほうをご利用になられればと思います。(記事の墨字資料割愛)

・A型事業所の可能性〈上〉 企業参入 http://www.kanaloco.jp/article/82217

・A型事業所の可能性〈中〉 社会福祉法人の挑戦 http://www.kanaloco.jp/article/80419

・A型事業所の可能性〈下〉 全Aネットの課題 http://www.kanaloco.jp/article/80695

« »