事務局より

【報告】 人権シンポジウム「差別による冤罪を考える」

【報告】 人権シンポジウム「差別による冤罪を考える」

野崎泰伸(障問連事務局)

 

総会に引き続き、人権シンポジウムが開催されました。今年度のテーマが「差別による冤罪を考える――狭山事件と青山事件~差別のない社会を目指して」ということで、部落解放同盟兵庫県連合会、篠山市議でもある植村満さん、青山正さんを救援する関西市民の会の小林敏昭さんをシンポジストとして迎えました。

石橋事務局長開会の辞のあと、まず植村さんから「狭山事件に学ぶ」と題した提起がなされました。狭山事件の背景にあるものが、市民の差別感情にあるものだということ、そして、「差別による冤罪」というよりは、むしろそのような差別感情を積極的に利用して作られた冤罪であるということを、報道番組の特集視聴を交えながら話されました。無実を示す証拠があっても、それすら警察や検察によってねつ造されうるのです。植村さんは、狭山事件から学んだこととして、司法権力の巨大さ、再審の困難さ、いつだれが逮捕されるかわからないというようなことを述べられました。ある警察官は「罪を犯していようがいまいが3日あれば落とせる」と証言していたそうで、警察・検察・裁判所がその気にさえなれば、無実の人を自白させ、犯罪者に仕立て上げることなどいとも簡単なことがこの言葉に示されています。植村さんの、「石川さんがたとえ亡くなったとしても、根底にあるのが部落差別である以上、負けを認めれば部落差別を認めてしまうことになる」という言葉が印象的でした。

続いて小林さんから、「人から物へ――野田事件、冤罪の構図」というお話しをいただきました。こちらも、報道番組の特集を視聴しながら、犯人に仕立て上げられた知的障害者である青山さんにいかに犯罪がなすりつけられてきたのかを話されました。とりわけ当日のお話しでは、青山さんの精神鑑定の差別性、地域における当時の報道も偏見を助長するものであったことが報告されました。青山さんは地域で住めなくなり、違う地域へと移らざるを得なかったわけですが、知的障害があるため混乱をきたしたという話しもありました。青山さんの場合、経験したことに影響されやすいという特性を持ち合わせているため、周りの環境、とくに警察の誘導に合わせてしまいやすいのです。現在、千葉地裁松戸支部に再審請求中です。

質疑応答も活発になされました。神戸の長田区で起こった小学生殺害事件も、当初から発達障害と目される人を実名を挙げて容疑者であると報道されたこと、なぜ警察が冤罪を作りだすのか、冤罪の歴史はいつから始まったのか、などについてのディスカッションがなされました。また、ハンセン氏病による偏見のもと逮捕され、死刑がすでに執行されてしまった菊池事件についても、フロアの神戸の支援者から提起がなされました。

感想としては、「この人が犯人に違いない」と思ったら、証拠を改ざんしてまでも警察は逮捕する可能性があること、そしてその背景として、市民の差別感情が持ち出されること、犯人に仕立て上げられる人に、「ふつうではない特異な人」という印象を与えること、マスコミがそうした差別や偏見を助長すらすること、そんなことを思いました。これは決して過去の問題ではありません。原発反対を訴える市民たちに対しても、警察は自作自演で公務執行妨害を理由に(「転び公妨」と言います)身柄を拘束するという事例もあります。まさに「逮捕したい人を逮捕できる」世の中であると言えるのかもしれません。秘密保護法も施行された現在、ますます取り調べや裁判を可視化する必要があるように思います。差別を利用した冤罪というものを作りださないためにも、私たち一人ひとりが差別感情を問い直し、差別構造を改めて考えていくシンポジウムだったのではないかと思います。

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