新聞記事から

【報道】 新聞記事より

■岐阜大病院に遺伝子診療部 新出生前診断、来春にも開始

岐阜新聞Web 2014年10月02日09:20

http://www.gifu-np.co.jp/news/kennai/20141002/201410020920_23417.shtml

 

岐阜大学病院(岐阜市)は1日、臨床遺伝の専門医やカウンセラー、専門看護師や遺伝子関連検査の技師らでつくる「遺伝子診療部」を設置した。遺伝性疾患の患者、家族への説明や相談体制を充実する狙い。

同日記者会見した深尾敏幸部長は、妊婦の血液で胎児のダウン症などの染色体異常を調べる新出生前診断について「県民ニーズに応えたい」と述べ、来春にも始める方針を示した。実現すれば県内で初。全国の実施病院でつくるコンソーシアムに年内に申請する。

遺伝子診療部は臨床遺伝や遺伝性疾患の専門医を含む小児科、糖尿病内科、神経内科、産婦人科の医師ら約10人と看護師、薬剤師、検査技師らで組織。新出生前診断以外にも各種遺伝子診断の相談や家族へのカウンセリング、結果の説明や治療方針を決める際に専門家チームで支援する。

例えば、「親が遺伝性の神経疾患で、自分への影響が気がかり」「1人目の子が遺伝病だが、次の子にも現れるか不安」といった幅広い悩みに対応する。

会見に同席した小倉真治病院長は「遺伝子診断の結果が一人歩きしないよう、倫理の専門家らを含めて患者や家族へのサポートを強化したい」と語った。

同診療部による遺伝子相談の希望者は、同病院の「医療連携センター」に電話する。

新出生前診断は、9月時点で全国41病院で実施。東海4県では、愛知県内の名古屋市立大、藤田保健衛生大、名古屋市立西部医療センターが行っている。

 

■居住施設転換方針に反対 精神科病棟めぐり集会

共同通信 2014/10/04 10:14

http://www.47news.jp/smp/47topics/e/258025.php

 

国が容認方針を固めた精神科病棟を精神障害者の居住施設に転換することについて、問題点などを報告しあう集会が3日、大阪市で開かれ、参加者らは「実質的に病院の管理下に置かれる。これまでの地域移行に向けた努力に水を差す」と反対の声を上げた。NPO法人「大阪精神医療人権センター」など4団体が主催した。

厚生労働省は7月、精神科病院の長期入院患者の退院を促すとして、入居年数など一定の制限付きで病棟を居住施設へ転換することを認めるとした。一方、当事者団体などからは「退院にならない。看板の掛け替えだ」との反対も根強い。

杏林大の長谷川利夫(はせがわ・としお)教授は「『障害者は特定の施設で生活する義務を負わない』とする障害者権利条約に違反する」と批判した。

大阪府は2000年に全国に先駆けて長期的入院を解消する事業を実施。退院した患者への面接調査で、 8割以上が 訪問看護などのケアを受けながら地域生活を継続し、現在の生活に「満足」と回答したという。

大阪人間科学大の辻井誠人(つじい・まこと)教授は「障害があると普通の暮らしができない社会は、不完全で不幸だ」と訴えた。

 


■生活保護の精神病患者「望まぬ長期入院」 団体が要望書

朝日新聞デジタル 2014年10月8日19時27分

http://www.asahi.com/articles/ASGB854J8GB8UCLV00F.html

 

本人が望んでいないのに精神科病院に長期入院している生活保護受給者がいるとして、法律家グループ「医療扶助・人権ネットワーク」(代表・山川幸生弁護士)が8日、厚生労働省などに入院の必要性を各自治体が確認するよう求める要望書を提出した。

同ネットワークの説明では、栃木県内のある精神科病院に長期入院する患者らから「退院したいのに、取り合ってもらえない」といった相談が電話や手紙で相次いだ。法律家らが面会などの介入をした結果、2012年12月以降、25人が退院したという。

要望書などによると、このうち24人の患者は、東京23区など栃木県外に住所がある生活保護受給者だった。希望すれば原則として退院できる任意入院でも、入院期間が5年にわたる人もいたと説明している。

一方、25人が入院していた栃木県内の精神科病院は朝日新聞の取材に対し、「(患者の)退院の申し出を無視して入院を継続させたことはない」「(退院の判断は)病状を第一に、その後の治療・生活環境などの状況も考慮」している、などと反論している。

厚生労働省保護課は「長期入院患者について実態把握をするよう周知徹底したい」としている。(久永隆一)

 


■「精神的に限界」 うつ抱える介護者

中日新聞 2014年10月15日

http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2014101502000001.html

 

自宅で家族を介護していると、主な介護者が問題を一人で抱え込んでしまい、周囲が気付かないうちにうつの症状が進むケースが少なくない。国立長寿医療研究センターと富山市が、同市内で実施した調査では、介護者の3割以上がうつ状態と判明。専門家は、介護が必要な高齢者とともに、介護者への支援を充実させる必要性を訴える。

名古屋市で認知症の八十代の母を在宅介護する女性(53)は昨秋、うつ病と診断され、今も薬の服用を続ける。

実母のもの忘れがひどくなり、認知症と診断されたのは七年ほど前。ここ二年で急激に悪化した。妄想がひどく、「他人が家に入ってきてめちゃくちゃにした」と女性の夫に激怒。注意されると子どものように泣き叫び、「出て行け」と罵倒した。トイレに行くと汚物を手に付けたまま歩き回るため目が離せない。

夫と二人の息子の五人暮らし。夫は仕事、息子は受験に失敗し浪人中で、母の介護は女性一人で担う。週三回のデイサービスを使い何とか続けてきたが、好きな旅行にも行けず、家にこもりがちに。

体重は十キロ近く落ち、両手がこわばってしっかり握れなくなった。母の顔を見ると吐き気がし、母の頭をぶったり、「母を殺して私も死のう」と思ったことも。でも診断を受けるまで、「自分ではうつだと思っていなかった」と言う。

愛知県内の五十代女性は認知症の義母を在宅で二年間介護したが、「精神的に限界」と感じて、昨冬、グループホームに預けた。

夫は東京に単身赴任中。「自分一人で判断し、対応しなければ」という責任感が負担に。息抜きも兼ねてパートで働きに出たが、徘徊(はいかい)や大学生の孫へ暴言を繰り返すようになり、目が離せなくなってやめた。

夜も安心して眠れず、持病のリウマチも悪化。週三回のデイサービスから、義母の帰宅が近づくと動悸(どうき)が止まらなくなった。義母の相談に行った病院の精神科で、医師から自分のことを心配された。

介護者を支援する一般社団法人「日本ケアラー連盟」(東京)代表理事の堀越栄子・日本女子大教授(63)によると、介護を嫌がっていると思われることを心配して、介護者は自分から助けを求めない傾向にあるという。介護保険は要介護者の支援が中心で、介護者の心のケアなど直接的な支援はほとんどないことも拍車をかけている。

国立長寿医療研究センターの荒井由美子・長寿政策科学研究部長と富山市が、同市内の在宅介護者約六千人を対象に実施した調査では、介護の負担を強く感じている介護者ほど、うつ状態の程度が高かった。一方、身近に相談できる人が多いと、介護の負担感やうつ状態が軽い傾向が出た。

こうした状況を改善するため、埼玉県では市民団体などが県内二十七カ所で、定期的に介護者が集うサロンを実施。岩手県花巻市や北海道栗山町は数年前から社会福祉協議会の職員らが介護者を訪問し、相談に乗る事業を始めている。

堀越教授は「介護者は目の前のことに精いっぱいで、自分が支援が必要なことにも気付かない。周囲が異変に気付き、支えることが必要」と話す。

国立長寿医療研究センターの荒井部長は、介護うつを判定する質問票を早期発見と支援に役立ててもらうため、ケアマネジャーや訪問看護師に提供することを検討している。問い合わせは、ファクス0562(46)8421。(山本真嗣)

 

 

■障害者の雇用、企業の理解は 道具を工夫、能力発揮

朝日新聞デジタル 2014年10月17日05時00分

http://digital.asahi.com/articles/DA3S11405621.html

 

障害がある人に対し、採用や賃金などで不当に差をつけることを禁じる改正障害者雇用促進法の施行を約1年半後に控え、企業は対応を迫られている。障害者が安心して働ける環境づくりを進めるため、肝心の雇う側の理解はどこまで進むのか。

パソコンの画面に映しだされるオートバイの立体画像を見ながら、運転する際に正面部分に空気がどうあたるのかを分析する。

自動車大手のホンダが大分県内につくった子会社「ホンダ太陽」。データビジネス部で働く首藤優一郎さん(32)は、手のひらよりひと回り大きい特注のマウスを操りながら、データの解析を進める。

首藤さんは高校生の時に、体育の授業でプールに飛び込んだ際、脊椎(せきつい)を損傷した。下半身が不自由になり、車いす生活を送る。特注のマウスは、右手にも麻痺(まひ)が残る首藤さんのために会社が特別に用意した。

同じ職場で働く42人のうち、障害者は20人いる。ホンダ太陽は先端技術を駆使し、障害者と健常者が同じように働けるように工夫しており、234人の従業員のうち133人が障害者。ホンダの全従業員に占める障害者の割合は法律で義務づけられた法定雇用率2%を上回る2・38%で、業界トップクラスという。首藤さんは「会社は力を発揮できる手助けをしてくれるし、健常者と同じように扱われ、結果も求められる」と話す。

ホンダ太陽は10月に別府市に残る拠点を隣の日出町の本社に統合。敷地内に新しい棟もでき、障害者の受け入れを増やす計画だ。

衣料や雑貨などを販売する「無印良品」を展開する良品計画は、2009年から精神障害者の受け入れを本格化した。同社で働く障害者は190人。7割にあたる137人が精神障害者だ。多くはパートとして、主に店舗裏での梱包(こんぽう)や倉庫整理、店舗での品出しなどの軽作業にあたる。

週5日で1日7・5時間の勤務を基本に、短時間勤務を認める。体調の変化に気を配り、本人に日誌を書いてもらい、休みや勤務時間の希望を受けつける。

同社の障害者の雇用率は3・7%。15年には5%をめざす同社人事課の成澤岐代子さんは「自己申告や面談を拡充させて対応していきたい」と話す。

■要望通じず退職

障害者の受け入れには職場の理解が欠かせないが、トラブルも少なくない。

都内の団体職員の女性(38)は24歳のとき、駅の階段から転げ落ち腰椎(ようつい)などを損傷したことが元で、左足が常にしびれ、杖を手放せなくなった。

かつて勤めていた資材メーカーで、車いすの利用や車での通勤を会社に要望したが、上司からは「歩けないというならば診断書を出せ」「車を運転しても安全という保証はあるのか」と言われた。結局、退職を余儀なくされた。

女性が加盟する障害者を支援する労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」の久保修一書記長は「企業は社員教育を充実させて、障害者と当たり前に接することを徹底してほしい」と指摘する。

■「何が差別か」戸惑いも

障害者の差別を禁じるといっても、「何が差別にあたるのか」と企業側には戸惑いの声もあがる。そのため、改正障害者雇用促進法の施行にあたり実務面での指針づくりが9月、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)でスタートした。

審議会に参加する労働側からは「個別の障害に配慮した仕組みづくりを」、経営側からは「企業が何をしたらいけないか具体的に示してほしい」といった意見が出ている。

前回の法改正で障害者の法定雇用率が昨年4月に1・8%から2%に引き上げられ、13年度にハローワークを通じ就職した障害者は、前年度比14%増の約7万8千人と4年連続で過去最高を更新した。

指針は来年2月にまとまる。支店の清掃業務などで24人の障害者が働く巣鴨信用金庫の人事担当者は「いまは障害者の枠を設けて募集しているが、改正法の施行後には差別にあたらないのかなど指針づくりに注目している。雇用する側に分かりやすいルールづくりをお願いしたい」と話す。(末崎毅、豊岡亮)

◆キーワード

<改正障害者雇用促進法> 企業に従業員の一定割合(法定雇用率)を障害者にするよう義務づける障害者雇用促進法が2013年6月に改正され、16年4月に施行される。改正で募集や賃金、配置、昇進などにおける障害者の差別を禁止する。18年4月からは企業が雇う障害者の範囲に、そううつ病や統合失調症などの精神障害者が加わる。

 

 

■認知症、初の当事者団体発足…支援策を提案

読売新聞 2014年10月18日 13時32分

http://www.yomiuri.co.jp/national/20141017-OYT1T50075.html

 

認知症があっても希望を持って暮らせる社会を目指し、認知症の本人が政策提言などを行う国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」が今月発足した。

認知症と診断された本人の視点から必要な支援策を提案するほか、診断された後もよりよく生きるための情報提供、認知症への正しい理解を広げる啓発活動などを行う。

メンバーは、認知症と診断された約10人。代表は、認知症に関する講演活動などを続ける鳥取県の藤田和子さん(53)、埼玉県の佐藤雅彦さん(60)、神奈川県の中村成信さん(64)の3人が共同で務める。今後、認知症と診断された人の参加を募る。参加資格を認知症の本人に限り、政策提言などを目的とした団体は、「これまで例はないのではないか」(厚生労働省)という。活動に賛同した医師や介護関係者、行政職員らが運営を支援する。

 

 

■手話言語法制定 300人デモで訴え 名古屋

中日新聞2014年10月20日

 

手話による情報共有の保障をうたう手話言語法の制定を目指して、東海地方の聴覚障害者らが十八日、名古屋市中区でデモ行進した。

東海聴覚障害者連盟が主催し、三百人が参加。「いつでも、どこでも手話通訳を!」などと書かれたプラカ―ドや横断幕を手に栄一帯を練り歩き、先導者の掛け声や手話に合わせて一斉に拳を突き上げてアピールした。

県聴覚障害者協会の服部芳明理事長(四〇)は「手話を言語として普及させる各地の動きを東海地方の人たちにも知ってもらいたい」と話した。

 

手話は二〇一一年の障害者基本法改正で、「言語に手話を含む」と明記。鳥取県や三重県松阪市などで手話普及を柱とした手話言語条例が成立しており、聴覚障害者の団体は手話が自由に使える社会を求めて法律制定を呼び掛けている。

 

 

■障害者権利条約批准 日本の課題は

神奈川新聞 2014.10.30 12:03:00

http://www.kanaloco.jp/article/79738/cms_id/109157

 

日本は今年1月、障害者権利条約を批准した。それは、障害者が「他の者との平等を基礎として完全かつ効果的に参加」できる社会の実現に国際的、国内的義務を負ったことを意味する。

国内の主な障害者団体でつくる「日本障害フォーラム(JDF)」は締約国の履行状況を審査する障害者権利委員会(スイス・ジュネーブ)に傍聴団を初めて派遣し、ニュージーランド、韓国の審査などから日本の課題を検証した。

◆NZ 弱点認める市制

JDFの傍聴団は立命館大客員教授の長瀬修さん、障害者インターナショナル(DPI)日本会議事務局員の浜島恭子さん、崔栄繁さんら7人で構成。

今回の第12回委員会で審査された6カ国のうち福祉先進国のニュージーランドや制度、社会情勢が似ている韓国を中心に傍聴、研究を行った。

ニュージーランドの審査では「数々の業績を推奨する。手話が3公用語の一つに指定されたことに注目する。初の電話投票を喜びとともに知った」などとの総括所見(勧告)が出され、高い評価が示された。浜島さんは「日本からすれば、制度があるだけすごいという分野があり、はるかに先進国」と語る。それでも懸念が示された分野もあった。

「障害のある女性の教育、雇用、ドメスティックバイオレンスと闘うことを応援する取り組みの強化」「医療機関における隔離と拘束の廃止」「自由な同意がない状況での不妊手術を禁じる法律の制定」「障害のある女性、男性の人権成果を、非障害の女性、男性と比較した統計報告の発行」などが勧告された。浜島さんは「障害のある女性の参画を進めるプログラムの充実はニュージーランドを含めた各国の大きな課題。障害のある女性は収入が低く、性暴力の被害も多い。結婚、妊娠、出産にも偏見がある」と指摘し、日本にとってはさらに大きな課題だと強調した。

傍聴団がニュージーランドの審査を通じて感銘を受けたのは、政府報告の内容と政府担当者の回答ぶりだった。「過去の政策の間違っている点を反省し、弱点を認めていた。その姿勢は委員会にも評価されていた。日本政府も見習ってほしい」と浜島さん。

長瀬さんは「政府報告は障害者政策の長所と短所をしっかり分析している。全体的な政策を意識しないと難しいことだ」と指摘する。それは審査過程にも反映されていた。政府担当者が政策全体を熟知しており、委員との質疑応答でも「中身のある議論、審査が展開されていた」。

日本の政府担当は外務省と内閣府だ。他の国際人権条約の履行状況審査で外務省が担当になったケースでは、外務省担当者は各省のペーパーを読む係にすぎず、委員の質問に十分答えられないケースもあった。「障害者権利条約では政策遂行も担う内閣府の役割が問われる」と長瀬さんは強調する。

障害のある子どもを含めすべての教育的ニーズに応えるインクルーシブ教育に文部科学省が消極的だったことなど、障害者権利条約に対して各省には温度差がある。政策遂行には政治のリーダーシップが欠かせず、それを支えるのが内閣府。日本の審査での政府答弁は、その結果を示すことになる。

◆韓国 「谷間問題」克服を

韓国は日本の制度を参考に障害者政策を進めてきた経緯があり、障害者が置かれた状況は日本と共通する部分が多い。障害福祉予算が極めて少ないという重大な問題があるが、法制度面では2000年代以降、日本に先んじて国家人権委員会法(00年)、社会的企業育成法(06年)、障害者差別禁止法(07年)を制定し、08年に障害者権利条約を批准するなど意欲的な政策を進めている。勧告では「多くの領域で進展があった」と評価される一方、さまざまな課題が指摘され、日本も同様の勧告を受けると考えられるケースも数多く見られた。

総括所見の懸念事項の冒頭では「福祉サービスの提供方法である等級制度を見直し、障害者の性質や状況、ニーズに応じて調整すること」が勧告された。「韓国では福祉サービスの支給決定が医学的基準で単純に決まっている」と崔さん。ニーズに合わないサービスや、障害によってはサービスを受けられない「谷間の問題」が生じているという。日本でも「谷間の問題」が残っており、大きな課題だ。

「教育におけるインクルージョン政策の実効性の調査」も勧告された。韓国では一般学校でのインクルーシブ教育が主流だが、日本では条約の精神や世界の潮流に逆行し、分離教育である特別支援学校、特別支援学級が増え続けている。崔さんは「日本でインクルーシブ教育を推進するには、保護者が安心できるサポート体制の整備が必要」と指摘する。

そのほか「成年後見制度での代理意思決定から支援を受けた自己決定への転換」「精神科病院での残虐で非人道的な扱い、強制治療の廃止」「効果的な脱施設戦略の開発」「障害者政策にジェンダーの視点を取り入れ、女性障害者に特化した政策の開発」「障害者が地域で自立できる十分な財政支援を行い、その際は家族の収入ではなく、本人の収入を基礎とする」などの勧告も、日本が検証すべき内容だ。

日本にはない人権委員会について、「人的資源と独立性の増強、強化、強制力の強化」が強く要求されており、日本でも人権委員会創設が重要な争点となる。

また、審査過程で傍聴団が注目したのは、韓国の障害者団体の力強い運動だった。長瀬さんは「韓国の障害者運動は世界で一番頑張っている。ラジカルさも一番」と語る。今回の委員会にも多くの障害者、障害者団体関係者が駆け付け、ロビー活動を展開した。

委員会には政府報告とは別に、非政府組織(NGO)からの報告「パラレル・リポート(シャドー・リポート)」が提出される。韓国の主要な障害者団体を網羅した「NGO報告書連帯」のリポートは「委員会に高く評価され、勧告にも大きな影響を与えた。周到な準備と情報収集がうまくいったと思われる」と崔さん。長瀬さんも「パラレル・リポートでも韓国の障害者運動のパワーを感じた」。

JDFでは、傍聴で確認した課題について政府への働き掛けを強め、「まず政府報告のレベルを上げたい」(藤井克徳幹事会議長)。さらに、韓国の障害者団体の取り組みも学び、日本のパラレル・リポート作成に進んでいく計画だ。

【障害者権利委員会】障害者権利条約の国際的モニタリング機関。2009年から毎年2回、スイス・ジュネーブで開催されている。主要な任務は、締約国が提出した報告の審査で、NGOが提出するパラレル・リポート(シャドー・リポート)も参考にして、勧告である総括所見をまとめる。委員18人のうち17人が障害者。委員長のマリア・ソリダード・システナス・ライエス氏(チリ)は視覚障害者の女性法律家。

日本は16年1月に政府報告を提出する。審査は最速では17年だが、18、19年にずれ込む可能性が高いという。

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