【精神障害】 三田市での精神障害者自宅監禁・虐待事件について
障問連事務局
昨年12月に大阪府寝屋川市で17歳から、16年間も監禁され栄養失調から33歳で凍死し女性障害者が亡くなられ、遺体を放置したとして両親が逮捕された事件は、私たちに衝撃を与えましたが、この兵庫県でも同じような事件が三田市で起きました。
三田市での事件は、監禁は20年以上に及ぶとされ、25年前にも保護者が市に相談、数年前にも社会福祉協議会に親族が相談するなど、保護者はSOSを発信していたにもかかわらず、何故このような長期にわたり事態が放置されていたのか、市の対応がどうだったのか疑問の声が上げられ、三田市として、市の対応を検証する第三者委員会として、弁護士・人権、障害福祉の専門家、兵庫県担当者による「障害者虐待にかかる対応検証委員会(仮称)」を設置し、5月初旬にも初会合が開かれ、3か月後に一定の結論を公表するとされています。
これらの動向に対し、地元「一般社団法人自立生活センター三田」代表の吉田さんと「リメンバー7.26神戸アクション」呼びかけ人による連名で、4月12日に三田市に対して質問・要望書、4月13日には兵庫県に対して、第三者委員会に関しての要望書が提出され、話し合いが継続されています。障問連として十分に取り組み協議できていませんが、今後とも注視し、できえることを取り組んでいきたいと思います。
以下、神戸市兵庫区の「自立生活センターリングリング」の船橋さんから情報提供いただいた、全国の自立生活センターに関わる精神障害当事者有志一同の声明文、また「みんなねっと」(全国精神保健福祉会連合会)の声明文を同団体のホームページより転載させていただき紹介します。
◆三田市の精神障害者自宅監禁・虐待事件についての声明文 2018年4月23日
自立生活センターで活動する精神当事者の有志一同
昨年12月の大阪寝屋川市の事件と同様、障害のある長男を自宅に作った檻の中に20年以上も監禁・虐待していた事件が兵庫県三田市で起こりました。報道によると、『父親は「長男は精神疾患があり、暴れるから仕方なく監禁した」と話しており、プレハブ内の木製の檻(高さ約1メートル、幅約1・8メートル、奥行き約90センチ)に長男を監禁していた。今年の1月に通報を受け市職員が自宅を訪問したときは、上半身に服を着ただけの姿で、檻には南京錠がかかり、ペット用シートが敷かれ垂れ流しの状態にされていた。父親によると、おおむね2日に1回程度、自宅で食事を与え、風呂にも入れていたという』とあります。また監禁の影響か片目を失明していたという報道もあります。
私たち『自立生活センターで活動する精神障害当事者の有志一同』は、この事件に衝撃を受け、怒りと悲しみを持って強く抗議するとともに、しっかりと事件を検証することと、二度とこのようなことの起こらないよう再発防止をすること、障害者の人権が守られる制度の構築と社会変革を求めます。
インターネットなどでは「父親のしたことも仕方ない」という家族に対する同情の意見がみられます。しかし、家畜のような扱いを受け、本人はどれほど絶望と不安と恐怖を抱きながら生活していたでしょうか。それを「手に負えないなら仕方がない」とすることは問題の本質を見逃し、そうした偏見や無関心が本人も家族も追い込んでいくことになります。そのように本人も家族も追い込んだ社会がある事実を決して歪めないでください。
報道によれば被害者は精神障害があると報道されていますが、知的障害があるとも報道されています。行政も警察もはっきり発表していません。障害名を公表することは再発防止の対策を考えるためにも、また「精神障害者だから暴れる」という偏見を世間に助長しないためにも必要です。精神疾患は急性期などに妄想と現実の区別がつかなくなったり、攻撃的になったりすることもありますが、暴れることは本人にとっては、追い詰められ、恐怖や不安に駆られているということです。適切な治療や支援や環境、どんな状態であれ周りの人に尊厳をもって接しられ、気持ちを尊重されることで状況はまったく変わります。
今回の事件では、20年以上前に両親が複数回三田市に相談しており、障害者手帳は取得していましたが結果的に支援を受けていませんでした。これに対して市は、当時の対応に誤りはなかったと話していますが、この時にしっかりと調査・対応していれば、20年以上も人権を無視された檻の中で監禁されることはなかったはずです。被害者が取得した手帳が精神障害者保健福祉手帳であるなら2年ごとの更新があり、その際には医師の診断書の提出も必要です。手帳を取得しながらなぜこのような悲惨な状況を発見ができなかったか、再発防止の為に県や市の責任の所在を明らかにし、原因を解明し改善を強く求めると共に、本人の人生が奪われたことに対しても強く抗議します。
寝屋川市の事件もあり、同じように自宅監禁されている障害者がいる可能性があると考えられます。自宅監禁されている障害者がいないか、調査することを自治体に要望します。
また重度の障害があれば病院か施設と、市民と住む場所を分けるのではなく、私たちは地域で障害のある人もない人も共存出来る社会を望んでいます。自宅監禁からは解放されたが入所施設で一生過すのでは障害者の人生を奪っていることに変わりありません。入所は出来るだけ短くし、地域で生活出来るよう支援してください。また地域で生活するための生活保障・介護保障など地域生活を保障するシステムの充実を国や自治体に求めます。
〈連絡先〉
・自立生活センターリングリング 兵庫県神戸市兵庫区中道通6丁目3-12-101
TEL/FAX 078-578-7358 E-mail ring-ring-kobe@extra.ocn.ne.jp 担当:船橋
・八王子精神障害者ピアサポートセンター 東京都八王子市明神町4-14-1 3F
TEL/FAX 042-646-5040 E-mail peersup_7777@hotmail.com 担当:竹沢
事件に関する精神障害当事者のコメント
○船橋裕晶(自立生活センターリングリング)
「あまりに悲惨な事件に体が震えます。湧き上げってきた怒りを行政や世間にだけに向けていていいのか、自分の心にある無力感と向き合い解決するにはどうするのがいいのかを考えます。このような事件は、介護は家族がみるのがあたりまえ、子供の面倒をみるのは親だけの責任という閉鎖的な家制度と、助けを求めたのに無関心であった行政、世間の理性的でなければ一人の人として扱われない価値観と偏見、本人の個性より治安が優先されることなどが障害者への差別と家族への抑圧を生み、このような事件の発生を許してしまいました。私たちはまず自分の中の無関心と能力主義に向き合わなければならないと感じます。そして自宅監禁から施設監禁に代わって解決ではなく、誰もが共存できる地域社会を作ることを目指します。」
○竹沢幸一(八王子精神障害者ピアサポートセンター)
「今回の事件に抗議するとともに、この20年以上を必死に生きた被害者が一刻も早く穏やかな地域生活を送れるようになることを願います。想像してほしいです。暑い日も寒く凍える日も、冷暖房器具も無く、叫んでも助けてくれる人はなく、暗い檻の中で耐え忍び、トイレも檻の中ですませ、2日に1回自宅に帰ることを待つ繰り返しの20年以上の年月。私は1カ月半精神科病院の保護室に入った時でも絶望的な気持ちになりました。被害者の絶望は途方も無く推し量ることさえ出来ません。もうこのような事件がおきないように、地域移行に力を注ぐだけではなく、誰もが暮らしやすい社会をより強く作りながら、地域移行という言葉が届かない所へ風を送ることも大切だと思います。」
◆「みんなねっと」(全国精神保健福祉会連合会)声明文
おおくの家族が心配事や困難を抱え、精神的に問題を抱えている(みんなねっと全国調査)
大阪・兵庫の現代版私宅監置とも言える
相継ぐ事件は、他人事では決してない!
https://seishinhoken.jp/proposals/5dec6687ebd2adaf0fe0166e7d830a0a23fc630d
私たち全国精神保健福祉会連合会は精神に障がいを持つひとの家族会全国組織です。3月兵庫県、昨年の12月大阪府で類似する2つの事件の報道がありました。2つの事件に共通することは、児童期に精神障害を患った被害者が家族によって自宅に長年監禁されていたという現代版私宅監置ともいえるものでした。
奇しくも今年は精神科医呉秀三が精神障害者の私宅監置(自宅の中に設置された隔離室で監禁すること)の実態報告書を政府に提出してから100年目となります。これをきっかけとして1950年に精神衛生法が制定され私宅監置が禁止されました。
一世紀を経た今日において、精神疾患を持つ子どもを家族が長年監禁していたという点については全国精神保健福祉会連合会(以下、当会)としても看過できない内容であるため、それぞれの事件は背景が異なる部分もあり、事件の全容解明がなされていない段階であることを前提としながらも、家族の抱える状況について現時点の見解を述べるものです。
当会では、2017年度に家族支援に関する全国調査を実施し、2018年3月に「平成29年度日本財団助成事業 精神障がい者の自立した地域生活の推進と家族が安心して生活できるための効果的な家族支援等のあり方に関する全国調査報告書」を発行した。その調査結果によると、「日中何もしていない」人が20.2%、障害者総合支援法のサービスを利用していない人が39.8%にのぼり、障害支援区分認定を受けている人も23.8%にとどまっています(「わからない」を除く)。重度に限定すると訪問看護も受けず、28.0%の人が「日中なにもしていない」とし、44.5%が福祉サービスを利用していないとしました。これらの重度の人々は一日中自宅で過ごしていることが予想されます。一方で73.3%の家族が日常的にストレスを抱え、60.4%の親が精神的な健康に問題を抱えていました。
さらに病状が悪化した際に50.9%の家族が暴言や暴力がみられたと回答しました。同時に27.4%の家族はこれらのような状態になったことはないとしました。こうした暴言や暴力は病状が悪化した際に見られるもので、そのような状態になる前に治療を受けることでこのような状態になることを防ぐことができ、仮にそうなってしまった場合でも治療を受けることによって比較的早い段階でこのような状態が改善します。
また同調査では、入院した際に隔離室に入れられたことがある人が66.7%、身体拘束を受けたことがある人が26.1%いることも判明しました。こうした隔離や身体拘束の経験が理由となって治療を拒む患者もいます。また、隔離や身体拘束をしなければならないような状態になってから治療を開始することにも問題があります。
今回の事件の背景には、精神的な疾患をもった際に、精神疾患としての認識を持ちにくく、すぐに保健医療につながりにくいこと、病院等で治療を受けることに対する抵抗感と、家族に精神疾患をもつ人がいることを周りの人から隠そうとする心理、そして病状が悪化してしまった時に家族がとる手段がほとんどないことが、現在の精神保健福祉の問題点として挙げられます。
現在、精神疾患は国民病でもあり、平成25年からは4大疾病に精神疾患が加えられ5大疾病となり、神経症やうつ病を患う人が増加し、精神疾患患者は392万人となりました。このように一般化してきた疾病であるにもかかわらず、精神的な変調をきたしても、すぐに精神科や心療内科にかかる人はそれほど多くはありません。
また、家族に精神疾患を患う人がいることを隠そうとする風潮は、改善されてきたとはいえ根強く残されています。これらの2つは、精神疾患に対する無理解や偏見からくるものです。
そして最終的に家族の病状が悪化してしまった際に、病院に連れていこうとしてもそうした手段が公的には整備されていません。家族が無理やり連れていけば家族に対する不信となり、民間の移送サービスを利用すると高額な費用がかかります。また、治療が行われ病状が安定していても、福祉サービスが十分に行き渡っていない現状も明らかとなりました。
つまり、社会からの孤立・情報からの孤立・支援からの孤立という主に3つの問題点を背景として、精神疾患のある人のいる家族は自宅で看護するしかない状態に追い込まれています。諸外国に比べ医療アクセス改革は大きく遅れているため、精神保健医療、福祉の改革が強く望まれます。
調査結果から見ると、「監禁」という状態は決して許されるものではありませんが、重度の精神疾患がありながら日中特に何もすることがなく、家族の看護だけで生活している人々が相当数いることが推測されます。
このような日本の現状を改善するためには、精神に不調が生じた際には早期に治療に関わるなどのメンタルリテラシーの普及、精神障害に対する無理解・偏見の克服、利用しやすく人権に配慮された医療、その後の福祉施策の充実とアクセシビリティの向上が求められます。
この度の全国調査報告書(2018年3月26日発行)は、全国市町村自治体の精神保健福祉担当部局や精神保健福祉センター、地域家族会に届けました。
家族が精神障害を持つ方を監禁してしまうような見えない差別をなくしていくためにも、障害をもつご本人と家族の実情を共通理解に、必要な政策の手立てと地域での理解がすすむことに期待します。
2018年4月13日
5月 5, 2018